童話「がちょう番の女」のあらすじと考察~自分の刑を決める間抜けな家来

こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。

ここでは、グリム童話より「がちょう番の女」(KHM89)のあらすじと考察、感想までお話しています。

 

がちょう番の女のあらすじ

むかし昔、あるところにお年寄りのお妃が住んでいました。

このお妃には美しいお姫様が一人いて、遠い国の王子のお嫁さんになる約束になっていました。

いよいよその時が来て、お姫様は旅立つことになりましたが、お妃は、貴重な道具や、金銀でできた身の回りの装飾品をたくさん持たせました。

さらにお腰元を一人つけさせ、めいめい馬に乗りましたが、お姫様はファラダという口が利ける馬に乗りました。

いよいよ別れの時になると、お妃はお姫様に、自分の血を三滴たらした小布を渡して、これを大事に取っておくよう言いました。

二人は旅立ち、一時間ほど馬を進めると、お姫様は喉がかわきました。

そこでお腰元に、あたしのお盃で、小川で水を一杯汲んできて、と言いました。

ですがお腰元は、「ご自分で小川で腹ばいになってお飲みになったら。あたしはあなたのお女中になるのは嫌だわ。」と言いました。

お姫様は黄金の盃が使えず、身をかがめて水を飲みました。

「まあ、なさけないこと!」

それから三滴の血が、

「こんなことがお母様に分かったら、お母様の心臓は破裂するでしょう。」

と返事をしました。

それからしばらく進むと、お姫様はまた喉がかわいて、お腰元に声をかけましたが、さっきと同じことになりました。

お姫様は泣きながら、

「まあ、なさけないこと!」

すると三滴の血は、

「こんなことがお母様に分かったら、お母様の心臓は破裂するでしょう。」

と返事をしました。

ところがこのとき、三滴の血の垂れた小布が、川に流されて行ってしまいました。

お腰元はこれを見て、自分が花嫁をどうとでもできることになって喜びました。

お姫様は、この血がなくなると同時に、人を抑える力がなくなってしまったのです。

お姫様が今まで乗っていた馬、ファラダに乗ろうとすると、お腰元は

「ファラダへ乗るのは、あたしだよ。お前が乗るのはあたしの駄馬に決まってるわ。」

そう言い捨て、さらにお姫様の着物と自分の着物を無理やり交換させ、向こうの国についたらこの話をしないことを誓わせました。

お姫様はこれを誓わないと殺されると思ったからです。ファラダはこれをちゃんと見ていました。

 

向こうの王様の御殿に着くと、王子はお腰元がお嫁さんだと思いこみ、お腰元は階段の上へ案内されました。

王子のお父様は、本当の王女がなよなよしつつも、顔が美しいのを見て、あれはどういう人か尋ねましたが、お腰元は、

「あれは旅の相手に私がめしつれた者。なんなりとお仕事をおさせください。」

王様はお姫様に、

「こぞうが一人、がちょう番をしているのだが、その手伝いをするのがよかろう。」

そう言い、お姫様はいや応なしにがちょう番をすることになりました。

間もなく偽の花嫁は、若い王様に、

「けだものの皮をはぐ人を呼んで、私が乗ってきた馬は、首を切らせてちょうだい。あの馬はしゃくにさわるの。」

お腰元は、自分がお姫様をひどい目にあわせたのをファラダにしゃべらせないためです。

これでファラダは死ぬことになりましたが、王女はこれを耳にすると、皮をはぐ商売の人にお金をやり、ある約束をさせました。

それは、この都には大きな真っ暗なトンネル型の門があって、王女は毎朝ガチョウの番をしにここを通るのですが、

王女が毎日ファラダに会えるように、この門にファラダを釘づけにしてもらいたいということでした。

皮をはぐ商人は約束通り、ファラダの首をちょん切ると、この門に釘づけにしました。

朝早く、王女とキュルドこぞうがここを通る時、

ファラダや、お前、そこにいるのね」

と言うと、

「お嫁いらずのお妃さまのお通りですね。これがお母様に知られたら、お母様の心臓は破裂するでしょう。」

と、返事をしました。

これを聞くと、王女はさっさと行きました。

王女はガチョウのいる草原で、髪の毛をまとめようとしました。

王女の髪の毛は金色で、キュルドこぞうはこれを見ると二、三本引っこ抜こうとしましたが、すると王女は、

「いやよ、いやよ、風ぼうず。

キュルドの帽子を取ってくれ。

帽子と、こぞうをきりきり舞いさせておくれ。

あたしが髪を編んで、頭へグルグル乗せるまで。」

すると、強い風がキュルドこぞうの帽子を吹き飛ばして、ころころ転がっていきました。

キュルドこぞうがそれを追いかけている間に、王女は髪を束ねました。

キュルドこぞうはそれで髪の毛を取れず、怒っていました。

次の朝、がちょう番をするためにまた真っ暗な門を通った時、王女はファラダと、昨日と同じ会話をしました。

そしてこの日もキュルドこぞうは帽子を飛ばされ、王女の髪の毛を取れませんでした。

 

二人が御殿へ帰ってから、キュルドこぞうは王様に言います。

「あの娘と一緒にガチョウ番をするのはもう嫌でございます。」

王様は訳を聞くと、

「どうしてって、一日中、しゃくにさわることばかりしますので。」

そう言って、毎朝暗い門を通る時に馬の首に話しかけていること、ガチョウを遊ばせる草原で、必ず帽子を吹き飛ばされることを話しました。

次の日の朝、王様は真っ暗な門でがちょう番の女がファラダと話すのを隠れて目撃します。

それから、草原でがちょう番の女が金色の髪の毛をほぐすのを見て、

王女が例の言葉を言うと、キュルドこぞうの帽子が風で飛ばされて、それを追いかけなければならないのを隠れて見ていました。

しばらくしてがちょう番の女が戻ってくると、王様はそのわけを尋ねましたが、

「あれは申し上げるわけにはいきません。どなたにも、苦しみ、愚痴を申し上げることはできません。

青空の下でかたく誓ったのですから。そうしなければ、わたしの命が無かったのです。」

王様はぜひとも話すように言いましたが、王女からは何も聞きだせません。

そこで王様は、そこにある鉄のストーブに打ち明けるとよい、と言って立ち去りました。

王女はストーブの中に入ると、胸の内を打ち明けました。

「私は世界中から見放されてるけど、本当はお姫様だわ。

腰元のはしためが、私の着ていた王女の衣裳を奪って、私の代わりに、自分がお婿様のとなりへ座ってしまった。

私はそのせいで、がちょう番のはしためをしなきゃいけないのよ。

こんなことがお母様に分かったら、お母様の心臓は破裂してしまうわ。」

お年寄りの王様は、この話を立ち聞きして、すっかり耳に入りました。

それから、王女にストーブから出ておいで、と言いました。

王女には王女の衣裳が着せられましたが、それはそれは美しい人です。

それから王子を呼び、本物の王女はここで、がちょう番のはしためになっていたことも話しました。

王子はこの王女が美しいのを見て喜び、大規模な饗宴が催されました。

上手に王子が座り、その隣に、片側に王女、片側にお腰元が座ったのですが、

王女は光り輝いていたので、お腰元はそれが自分のご主人だとは気づきませんでした。

みんなが食べたり飲んだりして、すっかり気分が良くなったころ、お年寄りの王様が、お腰元に、

自分のご主人をこうこうこんなふうに騙した女がいたなら、その女はどうされるのが当たり前だろうと細かい状況を話して、

「この女はどういう処分を受けるのが妥当か」とたずねると、

「その女は、まっぱだかにして、樽の中に入れます。

その樽の中にはとがった釘を打っておいて、その樽に馬を2頭つけて、引きずり回して殺してしまうのが一番よいです。」

「それはお前のことじゃ。お前は自分の処刑の方法を自分で決めたのじゃ。そのとおりにするぞ。」

その通りの裁きが済んでから、王子は本物のお嫁さんと一緒になり、仲良く、神様のお恵みも厚く、国を治めました。

 

ガチョウ番の女の考察

それではここから、この童話の考察に入ります。

まず物語の最初の方で、お姫様のお母さんが、血を三滴たらした布を渡してきて、

その布のおかげで下手にお腰元は手が出せない状態でした。

なぜ守ってくれたのは母親の血なのかというと、魔法の力を込めるのに血が適切だったからだと考えられます。

血には魔力が宿るというのは、いろんな昔話でよくあることです。

ですが、その血が川に流されてしまって、守護魔法がなくなってしまったのでしょう。

この童話ではお母さんは味方でしたが、魔術も心得ていたと考えられます。

それはなぜかというと、主人公のお姫様がガチョウ番をすることになったとき、キュルドこぞうを追い払ったからです。

キュルドこぞうがお姫様の髪の毛を取ろうとしたとき、呪文を言いましたね。

この呪文を言うと、ピューと風が吹いてきてキュルドこぞうの帽子を飛ばして、

キュルドこぞうは帽子を追いかけなければなりませんでした。

こうやってお姫様は自然をあやつる力を持っていたので、お母さんが魔力を持っていても不思議はないです。

また、三滴の血とファラダは、

「これがお母様に分かったら、心臓は破裂してしまうでしょう。」

ということを何度も言っていました。

このセリフからは、この2つは家来として、お姫様とお母さんに対し、非常に忠実だったことが受け取れます。

わざわざこれを繰り返すことから、それだけお姫様のことを大切にしていたと考えられます。

また、がちょう番の女が王様に「どういうことか?」と説明を求められ、それから鉄のストーブに悩みを打ち明けました。

なぜストーブだったのかというと、ストーブは体を温めてくれるものです。

温めてくれるということから、心を癒してくれることが連想できます。

だから悩みを打ち明ける相手は、鉄のストーブだったのだと考えられます。

 

ガチョウ番の女の感想

この童話は、グリム童話の中では長めということもあって、感情を動かされる場面が多かったです。

まず、お腰元が調子に乗るところ。

お姫様には全く忠誠心が無く、自分で水を飲んだら、と言ったり、良い馬や王女の衣裳を奪ってしまいます。

この物語でも例によって主人公のお姫様は無力なのですが、そこがお姫様を応援したくなりますね。

また、お姫様はやっぱり美しいということを思わせられるのは、

キュルドこぞうがお姫様の金色の髪の毛を取ろうとしたところです。

もちろん、この童話に絵はついていないのですが、絵があったらさぞ可愛かったでしょうね。

そして物語の最後、お腰元の悪事がばれて、王様から処刑の方法をなぞかけされたところが一番見ものです。

自分がやった悪事なのに、全然関係ない人間のことだと勘違いして、自分の処刑方法を決めてしまいます。

この部分は、僕だけでなく、読んだ人の多くは面白いと感じるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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というわけで、物語音楽ユニットのEternal Operettaのブログでした!

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