童話「トム・ティット・トット」のあらすじと考察~救世主がどんどん悪者に!?

こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。

ここでは、イギリス民話より、「トム・ティット・トット」あらすじと考察、感想までお話しています。

 

トム・ティット・トットのあらすじ

むかし昔、一人の女が、かまどでパイを五枚焼きました。

ところがそのパイは焼きすぎで、皮が固くて食べられませんでした。

そこで女は娘に、

「娘や、そのパイは棚の上に乗せて、しばらく放っておき。そうすりゃ、じきに戻るよ。」

つまり、時間が経てば皮が柔らかくなるだろう、ということです。

ところが娘は、

「そうか、また戻って来るなら、今食べちゃおう。」

そう一人ごとを言って、みんな食べてしまいました。

夕方になって、女は娘に、

「さあ、パイを取っておいで。もう戻った頃だから。」

娘は棚の上を見ましたが、あるのは皿ばかりです。

「ううん、まだ戻ってないよ。」

「それじゃ、戻ってなくても、晩ご飯に一つ食べるとしよう。」

「でも、戻ってないのに食べられっこないわ。」

「大丈夫よ、一番いいのを持っておいで。」

「良いも悪いも、あたしがみんな食べちゃったから、また戻ってくるまで食べられないよ。」

さすがに女はあきれて、糸車を戸口へ持ち出し、糸をつむぎながら歌い始めました。

「うちの娘はパイ食べた、今日一日で五枚食べた。

うちの娘はパイ食べた、今日一日で五枚食べた。」

その時王様が通りかかりましたが、その歌がよく聞き取れなかったので、何を歌っていたのか聞きました。

しかし女は娘のやったことを話すのが恥ずかしかったので、

「うちの娘は糸をつむぐ、今日一日で五かせつむぐ、

うちの娘は糸をつむぐ、今日一日で五かせつむぐ。」

と歌いました。

王様は、

「そんなことができるのか!お前の娘を妻としよう。

しかしいいな、一年のうち十一カ月は、いくらでも好きなものをやるが、

最後の一か月は、毎日五かせの糸を紡がねばならん。

もしできなければ、娘は殺すぞ。」

女は、

「よろしゅうございます。」

と言って承知しました。

これはまたとないチャンスだと思いましたし、この約束も、逃げ道はいくらでもあると思いましたし、

王様も忘れるだろうと思ったからです。

そして娘は王様に嫁いで、十一カ月の間は、望むもの、食べ放題、着放題、つけ放題。

ところが十一カ月が終わる頃、娘は王様がこの約束を覚えていないか心配になりました。

でも、王様は糸のことは何も話さなかったので、忘れているだろうと思っていました。

しかし十一カ月の最後の日、王様は娘をある部屋に連れて行きました。

部屋の中には、糸車と腰かけだけです。

「さあ、明日からお前をここに閉じ込める。夜までに五かせの糸をつむがないとお前の命はないものと思え。」

王様はそう言って、出て行ってしまいました。

娘はもともと考えなしの娘だったので、糸のつむぎ方など知っているはずがありません。

娘は腰かけに座り、泣きました。

その時、ドアの下あたりを叩く音が聞こえました。

ドアを開けると、長い尻尾の黒いちっちゃな奴がいて、

「お前さん、なんで泣いてるんだ?」

「余計なお世話よ。話したってどうにもならないわ。」

「そいつは分かんねえよ。」

「そうね、話したって悪いことはないわね。」

娘は、パイや糸つむぎのことなど、全部話しました。

すると、

「なら、おいらが毎朝ここに来て、麻を預かって、夜にはつむいだやつを届けるよ。」

「それで、お礼は?」

「毎晩三回、おいらの名前を当ててみ。今月の終わりまでに当てられなかったら、お前さんをいただくわ。」

娘は、今月終わりまでには当てられるだろうと思い、

「いいわ。」

するとそいつは、「よしきた!」と言って、尻尾をぐるぐる回しました。

翌日、この部屋で、麻と一日分の食料が持ち込まれ、

「さあ、夜までにつむぎ終わっていなければ、お前の命はないぞ。」

王様はそう言い、部屋を出ると鍵をかけました。

すると間もなく、あのちっちゃな老いぼれが出てきて、麻を持って出ていきました。

やがて夜になると、五かせの糸を持って戻って来ました。

「ところで、おいらの名前は?」

「名前はビルかい?」

「違うわい。」

「ネッド?」

「違うな。」

「じゃ、マークかい?」

「違う。」そう言って、そいつは尻尾をぐるぐる回し、出て行ってしまいました。

その後王様が入ってくると、

「なるほど、今夜はお前を殺さなくていいな。また明日、麻と食べ物を持ってくる。」

こうして毎朝毎晩、あのちっちゃな黒い小鬼がやってきました。

娘はいろんな名前を考えましたが、どうしても名前は当てられませんでした。

月末に近づくにつれ、小鬼は意地悪いっぱいになって、娘が名前を言うたびにますます早く、尻尾を回しました。

とうとう、あと一日で最後の日です。その前夜に小鬼は、

「どうだ、おいらの名前は分かったか?」

「ニコデマス?」

「いいや、違う。」

「じゃあ、サムル?」

「それも違う。」

「ええと、メシューサレムかい?」

「そいつも違うがな。」

小鬼は燃えるような目で娘を見ると、

「いいか、あとは明日の晩だけで、お前はおいらのものよ!」

そう言って、すっ飛んで行きました。

さすがに娘も、恐ろしくなりました。

そこへ王様が入ってくると、五かせの糸を見て、

「この分なら、明日の夜も糸をつむいであろう。

どうやらお前を殺さなくていいようだ。

今夜はここで食事をするとしよう。」

そこで、夕食と椅子が運び込まれ、二人は食事を始めました。

王様が一口、二口食べると、いきなり笑い出しました。

「どうなさいましたか?」

「それがな、今日狩りに出かけたところ、これまで行ったことない森に出てしまってな。

そこに穴があったんだが、その中から歌が聞こえてきたんだ。

その中を見たら、穴の中に、これまで見たことない、奇妙な真っ黒い奴がいたんだ。

そいつがびっくりするくらい早く糸をつむいでいて、糸を紡ぎながらこんな歌を歌っていたんだ。

「なんじゃもんじゃのチチンプイ

おいらの名前はトム・ティット・トットだ」

この話を聞くと、妃になった娘は嬉しくて飛びあがりそうでしたが、何も言わずにいました。

次の朝、麻を取りに来たちっちゃな奴は、特に意地悪そうでした。

夜になると、そいつは大口開けてニタニタ笑い、なんとまあ、グルングルン尻尾を回す速さの速いこと。

「おいらの名前を当ててみな。」

「ソロモンかい?」

娘は怖がっているふりをしながら言いました。

「うんや、違うわい。」

「それじゃ、ゼベディー?」

「それも違うわい。」

そう言って、小鬼はケタケタ笑い、目にもとまらぬ速さで尻尾を回しました。

「ゆっくり考えな。あと一つでお前さんはおいらのものだ。」

そこで娘は大声で笑い、小鬼を指さしながら言いました。

「なんじゃもんじゃのチチンプイ。

お前の名前はトム・ティット・トットだよ。」

それを聞くと、そいつは恐ろしく悲鳴を上げて、すっ飛んでいって、二度と姿を現しませんでした。

 

トム・ティット・トットの考察

それではここから、この童話の考察に入ります。

この童話は、グリム童話の「がたがたの竹馬こぞう」と話の内容が似ています。

糸つむぎが得意だからと、全然できないのに王様のお妃になったこと。

糸つむぎを手伝ってくれる悪魔がいること。

名前を当てられなかったら、悪魔に大事なものを取られることが、一緒です。

そのため、がたがたの竹馬こぞうのページの考察も参考にしてみてくださいね。

さて、この童話の主人公の娘は、「パイが戻ってくる」という言葉の意味を勘違いし、

食べても食べても出てくると思い込んでしまうほど、まぬけな少女でした。

この少女は他にはどんな性格か、などは一切書いていないのに、

なぜかこのまぬけな少女は、憎めない登場人物です。

この娘が憎めないと思ってしまうには理由が三つあると考えられます。

まずは、母親が勝手に王様との結婚を決めてしまった事です。

娘は王様と結婚したいと思っていないのに、勝手に結婚することになってしまいました。

それから、「糸をつむげる」だなんて本人は一言も言っていないのに、

勝手に、「糸をつむげなければ、命はないぞ」なんて一方的に言われたことです。

これは、完全に理不尽です。

そしてもう一つは、代わりに糸をつむいだ黒いちっちゃな奴が、

「お前はおれのものだぞ」なんて言ってきたことです。

いくら間抜けな女の子でも、これだけ可哀そうなことが続けば、読者は同情するでしょう。

それから、この「黒いちっちゃな奴」は、「ちっちゃな老いぼれ」「ちっちゃな黒い小鬼」と、

童話の中でこの登場人物の表現が変わっていきました。

なぜこんなふうに表現の仕方が変わっていったかというと、

こいつが悪者だということがだんだん分かっていったからだと考えられます。

最初に出てきた時は、まぬけな娘の救世主でもあります。

ところが、毎日出てくるにつれてこいつの悪さが分かって来て、

まずはちっちゃな老いぼれとなったのです。

そして最後は、ケタケタ笑いながら

「ゆっくり考えな。あと一つでお前さんはおいらのものだ。」

なんて言ったのですから、完全に悪党になったから、「ちっちゃな黒い小鬼」

って表現になったと考えられます。

 

トム・ティット・トットの感想

この童話は、がたがたの竹馬こぞうと同じ感じの童話で、

この黒いやつが間抜けだったのは同じでした。

名前を当ててみなと言っておきながら、自分の家では余裕ぶっこいて自分の名前を言ってしまったのですから。

一番面白かったのは、一か月の最後の日、名前を当てられる直前まで自信満々だったのに、

名前を言われた瞬間、恐ろしい悲鳴をあげて帰ったところでした。

「ショボいやつだなー」って思っていました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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というわけで、物語音楽ユニットのEternal Operettaのブログでした!

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