童話「火打ち箱」のあらすじと考察~悪人がまさかのハッピーエンドに!?

こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。

ここでは、アンデルセン童話より、火打ち箱あらすじと考察、感想までお話しています。

 

火打ち箱のあらすじ

一人の兵隊さんが家に帰る途中、魔法使いのおばあさんに出会いました。

おばあさんが、

「こんばんは、兵隊さん。ずいぶん立派な兵隊さんだねえ。

ところで、お前さんに好きなだけお金をあげようかね。」

「ありがとう、魔法使いのおばあさん。」

「この木はね、てっぺんの穴から中へ入れるんだよ。

中はね、ランプが燃えていて明るいんだよ。

扉が3つあって、最初の部屋では、真ん中に大きな箱があって、その上に目玉が茶碗くらいの大きさの犬が座っているのさ。

でも、びびることはない。私のこの前掛けを床に広げて、その上に犬を置きなさい。

この箱の中には銅貨が入ってるよ。

次の部屋には、銀貨の入った箱の上に、目玉が水車くらいある犬が座っている。

でも、同じように前掛けを使えば、欲しいだけ銀貨を取り出せるのさ。

三番目の部屋には、金貨の入った箱の上に、目玉が円塔ぐらいの大きさの犬がいるよ。

でも前掛けを使えば、犬は何もしない。

その間に、好きなだけ金貨を取り出すのさ。

お前さんの体に綱をつけておくから、お前さんが呼んだら、すぐに引き上げるよ。」

「こいつはいいや。だが、お前はお礼に何が欲しいんだい?」

「わたしはびた一文ももらわないよ。ただ、中から古い火打ち箱を持って来てくれりゃいいのさ。」

こうして、兵隊さんは木の中に入りました。

いよいよ最初の扉を開けると、そこには茶碗くらいの目玉の犬が座っていました。

「よしよし、いい子だからな。」

兵隊さんは言われたとおりにすると、ポケットに銅貨を入るだけ詰めました。

今度は二番目の部屋に入りました。

そこには、水車くらいの目玉の犬が座っていました。

「そんなにおいらを睨むなよ。」

そして前の犬と同じようにして、さっきの銅貨を放り出して、銀貨をたくさん詰めました。

三番目の部屋に行くと、その部屋の犬は、本当に円塔くらいの目玉をしています。

しかも、その目玉はぐるぐる回っていました。

兵隊は驚きましたが、同じように犬を床に降ろして、箱を開けました。

そこには金貨の山があって、兵隊さんは銀貨を放り出して、金貨をあちこちに詰め込みました。

それから戻って、

「魔法使いのおばあさん、引っ張りあげてくれ!」

「火打ち箱は持ってきたかね?」

「そうだ、すっかり忘れていた。」

兵隊さんは火打ち箱を持ってくると、引っ張りあげてもらいました。

「この火打ち箱を、いったいどうするんだね?」

「そんなこと、お前には関係ない!お前はお金を手に入れたんだから、さっさとよこしな。」

「うるさい、どうするのか言え!でないと、お前の首を切り落とすぞ。」

「いいや、言わん。」

そこで兵隊さんは、おばあさんの首をちょんぎってしまいました。

そして兵隊さんは、金貨と火打ち箱を持って、町へと歩いていきました。

町に入ると、一番上等の宿の、一番いい部屋に泊まりました。

なぜなら、今はお金持ちだからです。

それから、良い靴と上等の服も手に入れました。

これで、兵隊さんは立派な紳士です。

すると、町の人は、町のことや、王様のこと、お姫様がどれほど可愛らしいかなどをお話してくれました。

「どうしたら、そのお姫様に会えますか。」

「とても見られないですよ。お姫様は石垣で囲まれた御殿に住んでいるのですよ。

王様以外は、誰もお姫様に会えないのです。

なぜなら、お姫様には、ただの一兵卒と結婚するだろう、という予言があるからなんです。」

「どうしてもお姫様に会いたいなあ。」

兵隊さんはそう言いましたが、そんなことは叶うはずはありません。

兵隊さんは、毎日を楽しく暮らしました。

芝居を見に行ったり、貧しい人に施しをしました。

今はお金持ちで、いい着物を着て、友達もたくさんできました。

周りの人は、良い人だ、本物の紳士だ、とちやほやしました。

兵隊さんは、それを言われて悪い気持ちはしません。

ところが、毎日お金を使って、入るものはないので、とうとう銀貨が二つあるだけになってしまいました。

そして立派な部屋を出て、屋根裏の小さい家に引っ越してきて、働かなければなりませんでした。

もう誰も友達は訪ねてきません。

なぜなら、たくさんの階段を上ってこなければいけないからです。

さて、ある真っ暗な晩、火打ち箱のことを思い出しました。

兵隊さんが火をつけると、入口にはあの木の中で見た、茶碗くらいの目玉の犬がいて、

「旦那様、なんの御用で?」

と言いました。

「おれの欲しいものが手に入るんだ、こりゃあいいぞ。金を持ってきてくれ。」

すると犬が出て行ったと思うと、お金の詰まった財布を持ってきました。

これで、この火打ち箱の価値が分かりました。

これを一度打つと、銅貨の箱の犬。

二度打つと、銀貨の箱の犬。

三度打つと、金貨の箱の犬が出てくるのです。

また兵隊さんはお金持ちになりました。

すると、友達もみなそれを知って、ちやほやするのでした。

ある時、兵隊さんはお姫様を見たく思いました。

そこで、火打ち箱で茶碗くらいの目の犬を呼び出すと、

「夜なかですまんが、おれはお姫様をぜひ見たいんだ。」

犬はすぐに飛び出すと、まもなくお姫様を連れてきました。

お姫様は眠っていましたが、それはとても綺麗でした。

すると兵隊さんは、思わずお姫様にキスをしました。

やがて犬は、お姫様をのせて御殿へ帰って行きました。

ところが次の朝、お姫様は、王様とお妃さまに、

ゆうべ犬に乗せられて、兵隊さんにキスをされたという変な夢を見たと言いました。

そこでその晩は、年寄りの女官の1人がお姫様のそばで寝ずの番をして、それを確かめることにしました。

兵隊さんは、またお姫様を見たくなったので、また犬に連れて来させました。

ところが年寄りの女官も、その後をつけてきました。

そして犬とお姫様が入っていった大きな家を見て、居場所をつきとめたと思って、戸口に十字の印をつけました。

ところが、犬はこれに気づいたので、町中の家の戸口に、同じように十字を書いておきました。

次の朝、王様たちは出かけました。

「ここだ!」

「いえ、あそこでございますよ。」

「いや、あそこにも、あ、ここにもあります。」

これでは、いくら探しても無駄でした。

そこでお妃さまは、袋をぬって、その中にそば粉をつめて、お姫様の背中にゆわえつけました。

それから袋に小さな穴を開けて、お姫様が動けば、道に粉がこぼれるようにしておきました。

夜になると、また犬がお姫様を連れて行きました。

兵隊さんは、もし自分が王子で、お姫様と結婚できたら、どんなにいいだろうと思いました。

犬は、御殿から兵隊さんのいる家まで粉がこぼれていることに、全く気付きませんでした。

次の朝、お姫様がどこにいたか分かってしまい、兵隊さんは捕まってしまいました。

兵隊さんは暗い地下室で座っていました。

おまけに、「明日には、お前はしめ殺されるのだぞ」と言われました。

おまけに、火打ち箱は、家に置いてきてしまいました。

次の朝になって、鉄格子のすき間から、人々が歩いているのが見えました。

そこを靴屋の小僧が通ったとき、

「おい、靴屋の小僧さん。おれの家に行って、火打ち箱を持ってきてくれないか。四シリングやるぞ。」

靴屋の小僧は、お金欲しさに、すぐに走って行って、火打ち箱を兵隊さんに渡しました。

そしてその後、どうなったでしょうか。それを聞くとしましょう。

町の外には、絞首台が用意されました。

そこには大勢の兵隊と、大勢の町の人、王様とお妃さま、裁判官や顧問官たちがいました。

兵隊さんはついに首に縄をかけられる時、

「どんな罪人でも、最後に一つ、願いを叶えてもらえるそうではないですか。

私にも、最後にたばこを一服させてください。」

王様はそれを許しました。

それで兵隊さんは火打石で一、二、三と火をきると、あの犬が三匹出てきました。

「おい、おれを助けてくれ。このままじゃ殺されるんだ。」

すると、三匹の犬は裁判官や顧問官に飛びかかってかみつきます。

それからみんなを放り上げると、落ちてきて死んでしまいました。

「わしは許してくれ!」

王様はそう言いましたが、一番大きい犬が、王様とお妃さまをほうり上げてしまいました。

兵士たちは怖くなり、人々はこう言いました。

「あの、兵隊さん!私たちの王様になってください。そしてお姫様をお妃にしてください!」

こうして兵隊さんは、王様になりました。

三匹の犬は「ばんざい!」と叫び、子供たちは口笛を吹き、兵隊たちは捧げ銃をしました。

お姫様はお妃になりましたが、お姫様自身は嫌ではありませんでした。

ご婚礼のお祝いは一週間も続き、その間三匹の犬は、大きな目をぐりぐりさせていました。

 

火打ち箱の考察

それではここから、この童話の考察に入ります。

まず、主人公の兵隊。この人は善人か悪人かですが、悪人だと考えて良さそうです。

最初、火打ち箱を手に入れるために、魔法使いのおばあさんを手にかけました。

その後、町でお金を使い果たします。

ところがここで、火打ち箱の魔法を使って、お金を持ってこさせました。

このお金はどこから持ってきたかは書かれていませんでしたが、犬が運んできたことを考えると、

誰かから盗んできたと考えられます。

そしてお姫様を勝手に連れてきましたし、

その罰を受けて当然なのに、最後は三匹の犬を呼び出して、暴れ回りましたね。

ここまでやれば、悪人であることは言うまでもありません。

ところが、一つ気になるところがありました。

それは、町に着いてお金をたくさん持っていた時、貧しい人に施しをしたことです。

本当の悪人だったら、そんなことをするとは考えにくいです。

なぜこんなことをしたのかというと、

「お前に金をやるんだからありがたく思えよ」と、自分のことを崇拝させようと、そうしたのだと考えられます。

はっきり言って、この兵隊さんは悪人です。

本当に相手のことを思ってやったのではなく、結局は自分のためだと考えられます。

だからこそ、お金が無くなった時は誰も訪ねて来なくなり、悪人ゆえに本当の友達なんて一人もできなかったのです。

そして再びお金持ちになった時は、友達が戻ってきたので、しょせんこの兵隊さんは利用される側だったのです。

それから、最終的にお姫様と結婚し、「ただの一兵卒と結婚する」という予言が的中しました。

「ただの一兵卒」という言葉がふさわしく、この兵隊さんは、魔法の火打ち箱を持っている以外は、何の取り柄もありませんでしたね。

正確は悪く、兵隊として特別な実績を持っていなかったので、決して素晴らしい人ではありません。

ただ、それでもお姫様は、この兵隊さんとの結婚を嫌がりませんでした。

なぜ嫌がらなかったかというと、作者のアンデルセンが、この兵隊さんが悪者だというのを隠していたからだと考えられます。

悪者が最後に良い思いをしてしまうと、読者からの共感が得られなくなってしまいます。

そこで、兵隊さんを悪者に見立てないために、このような設定になったと考えられます。

ちなみに兵隊さんが貧しい人に施しをしたというのにも、その意図もあるはずです。

 

火打ち箱の感想

この童話は、やっぱりモヤモヤする部分がありました。

兵隊さんは悪者のはずなのに、まるで善人のように感じられ、最後はハッピーエンドになってしまうのです。

ところが、空へ放り上げられた王様やお妃さまは、何も悪いことをしていません。

悪いことをしていないのに殺されて、さんざん悪いことをした兵隊さんは、お姫様と結婚してしまいます。

普通に童話を読んでいる分には不自然さはないのに、こうやって考えてみると不思議だなと感じられました。

また、魔法使いのおばあさんが、火打ち箱を何に使うか最後まで分かりませんでした。

このおばあさんは強情をはってこの火打ち箱については何も言いませんでしたが、

兵隊さんに殺されるなんて夢にも思わなかったでしょうね。

そう考えると、金貨をやったのにかわいそうなものだと感じられました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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というわけで、物語音楽ユニットのEternal Operettaのブログでした!

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