童話「豚飼い王子」のあらすじと考察~姫のキスの価値はどれほどか

こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。

ここでは、アンデルセン童話より、「豚飼い王子」あらすじと考察、感想までお話しています。

 

豚飼い王子のあらすじ

むかし昔、貧しい王子がいました。

この王子の国は小さかったのですが、結婚をするには十分の大きさでした。

王子は結婚したいと考えていました。

この王子の名前は多くの国に知られていて、結婚を申し込まれたら嬉しがりそうなお姫様はたくさんいました。

王子のお父様のお墓の上には、一本のバラの木が生えていました。

このバラは、5年に一度、しかもたった一輪しか咲かないのです。

けれどもこの花はそれは美しく、その甘い匂いをかぐと、悲しみを忘れてしまうほどでした。

それから、王子は一羽のナイチンゲールを持っていて、その歌の上手なこと、どんなメロディーでも可愛い声で歌いました。

さて、王子はこのバラの花とナイチンゲールを大きな銀の入れ物に入れて、お姫様のところに送り届けました。

お姫様は、贈り物の入れ物を見ると、嬉しがって、

「可愛い子猫が出てきますように。」

ところが出てきたのは、美しいバラの花でした。

お姫様のそばにいた女官は、

「なんて綺麗に作ってあるのでしょう。」

皇帝は、

「綺麗どころか、なんと清らかなんじゃ。」

ところがお姫様は、

「まあ、嫌だわ、パパ。これは本物の花だわ。」

皇帝は、

「もう一つのほうは何が入っているか、見てから文句をつけるか決めようではないか。」

中を開けると、ナイチンゲールが出てきました。

そしてこの鳥は上手に歌を歌いましたので、みんなは文句を言うことはできませんでした。

女官は、

「まあ素敵、素晴らしいわ。」

年寄りの家来は、

「この鳥は、亡くなった皇后様のオルゴールを思い出させますな。」

皇帝は、

「本当にそうじゃな。」

そう言って、子供のように泣きました。

お姫様は、

「まさか本物の鳥じゃないでしょうね。」

「もちろん本物でございますとも。」

「じゃ、そんな鳥は飛ばしておしまい。」

お姫様は、王子が来るのを嫌がりました。

けれども、王子はそんなことではあきらめません。

顔を汚くして、帽子を深くかぶって、お城の門を叩きました。

「こんにちは、皇帝様!お城で私を使っていただけませんか。」

皇帝は、

「そうじゃ、豚の番をするものが必要じゃった。」

こうして王子は、お城の豚飼いを任されました。

王子はみすぼらしい小屋に住んでいますが、一日かけて、小さい壺を作りました。

この壺は、中のものが沸くと、

「いとしの君よ、アウグスチン、何もかも、あわれや、ふいふいふい」

と、昔からのメロディーを奏でるのでした。

さらに、壺の中から出てくる湯気のにおいで、町中の台所でどんな料理が作られているか分かるのでした。

これは、バラの花とはまた別のものです。

さて、お姫様が散歩をしていると、このメロディーが聞こえてきました。

このメロディーは、お姫様が唯一ピアノで弾ける曲です。それも、一本指で弾くのでした。

「あれは、私が弾ける歌だわ!きっと学問のある豚飼いよ。その楽器を買ってきて。」

そこで、女官がそこへ行くと、

「その壺、いくらでゆずってくれます?」

すると豚飼いは、

「お姫様のキスを、10ぺんいただきます。」

「まあ、とんでもないこと!」

女官が戻ってきて話を聞くと、お姫様は、

「まあ、失礼な。」

こういって、歩いていきました。

ところがまたあのメロディーが鳴り出すと、

「ねえ、私の女官のキスを10回でもいいかって聞いてきて。」

すると豚飼いは、

「ダメです。お姫様のキスでなければ、壺は差しあげられません。」

お姫様は、

「なんてことを言うんでしょう。そしたら、誰にも見られないよう、みんな私の周りに立っていておくれ。」

こうしてお姫様は豚飼いに10回キスをして、壺をもらいました。

さて、みんなはとても喜びました。

壺はずっとお湯を沸かし、町中の台所の料理が何か分かりました。

「私たちには、誰がスープやパンケーキを食べているのか、分かるのね。

誰がオートミールやカツレツを食べているかも分かるわ。

本当に面白いわ。」

「本当に面白いですね。」

女官たちは言いました。

さて豚飼いは、今度はがらがらを作りました。

これをふると、ワルツでも、ガロップでも、ポルカでも、どんな曲でも鳴らすことができるのです。

「まあ、素敵だわ。こんな音楽は初めてよ。お前、あそこへ行って、その楽器はいくらか聞いてきて。

私はキスはしないわよ。」

「お姫様のキスを100回いただきます。」

聞きに行った女官がこう言っていたと言うと、

「気でも狂ってるんだわ。」

こう言ってお姫様は少し先を行くと、やっぱり立ち止まりました。

「あの男にこう言ってごらん。キスを10回してあげる。残りは女官のをあげるって。」

「あら、私たち、それは困りますわ。」

「余計なこと言うな。その代わり、お前たちに食事つきの部屋をあげるよ。」

豚飼いは、

「お姫様のキスを100ぺんでないと、これはあげられません。」

そうすると、お姫様の周りに女官が立って、豚飼いはキスをしました。

とその時、バルコニーに出ていた皇帝が、

「あの豚小屋のところの人だかりはなんじゃ。ふざけているのは、女官たちじゃな。」

そう言って、こっちに向かってきました。

女官たちはキスの数を数えていて、皇帝が来たのにはちっとも気づきませんでした。

皇帝は、

「いや、なんたることじゃ。」

ちょうど豚飼いが86回目のキスをもらっている時、二人の頭をスリッパでぶちました。

「出ていけ!」

皇帝はかんかんに怒って、お姫様と豚飼いは、国の外へ追い出されてしまいました。

お姫様は、しょんぼりして泣くばかりでした。

豚飼いは文句を言うし、雨まで降ってきました。

「ああ、私は本当に惨めだわ。あの美しい王子様をお迎えしていれば良かった。私はなんて不幸せなんでしょう。」

その時豚飼いは、顔につけた汚いものをふきとって、汚い着物を脱ぎ、王子の姿で出てきました。

本当に立派で、お姫様も頭を下げずにいられませんでした。

「今となっては、僕はあなたを見下しています。

あなたにはバラの花やナイチンゲールを贈ったのに、その価値が分からなかった。

そのくせ、おもちゃのために、豚飼いにキスまでなさった。

その報いが今のあなたです。」

こう言って、王子は自分の国に入り、門を閉めてしまいました。

今度は、お姫様が門の外で歌いました。

「いとしの君よ、アウグスチン、何もかも、あわれや、ふいふいふい」

 

豚飼い王子の考察

それではここから、この童話の考察に入ります。

この童話では、お姫様は5年に一度しか咲かない美しいバラの良さと、素敵な歌を歌うナイチンゲールの良さが分からず、

豚飼いの持っているおもちゃには価値を感じていました。

そしてその結果、お姫様は最後ひどい目にあうことになったのですが、

この童話の教訓としては、「本質を理解できないことへの警告」を示しているように考えられます。

本質は何かを見極められれば人生は上手くいきますし、それを見極められなければ、人生は上手くいきません。

この童話ではお姫様ばかりが不幸な目にあいましたが、悪いのはお姫様だけではないはずです。

まず、お姫様には幼さを表す記述がありました。

それは、本物のバラや鳥より、作り物のバラや鳥を欲しがったことです。

作り物は、いわばおもちゃで、お姫様はおもちゃを欲しがったということは、幼さが目立つ証拠です。

ですが、こんなふうにお姫様を育ててしまったのは、まぎれもない皇帝ですよね。

お母様は死んでしまっているので、こんな育て方をした皇帝にも、悪いところがあります。

あと、お姫様がこの王子との結婚を嫌がったのは、この王子が貧しい国だからというのもあるはずです。

人間はいつの時代も、お金持ちと結婚したがるものなので、これは普通のことです。

ですが王子も、自分よりもお金を持っているお姫様と結婚しようとしたのは、お金目当てもあると考えられます。

ということは、悪いのはお姫様だけでなく、王子も悪いでしょう。

 

豚飼い王子の感想

この童話では、途中一つの歌が出てきましたね。

豚飼い王子の持っている壺から出てきた歌で、お姫様が唯一ピアノで弾ける歌でしたが、

この歌を最後、お姫様が歌うことになったのが面白いところでした。

「何もかもあわれや」という歌詞がありましたが、

まさかこれがここに来て、お姫様自身のことを表していることになるなんて、

童話を読んでいて、最初にこの歌が出てきた時には思いもよらないことです。

また、王子は豚飼いの姿をしてお姫様からキスをされました。

もちろん、お姫様を試すためにやったことですが、心の中では嬉しがっていたのか、気になるところですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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というわけで、物語音楽ユニットのEternal Operettaのブログでした!

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