こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。
ここでは、アンデルセン童話より、「ある母親の物語」のあらすじと考察、感想までお話しています。
ある母親の物語のあらすじ
一人の母親が、小さい子供のそばにいました。
そして、その子が死んでしまわないか、それはそれは心配していました。
その子は青い顔をして、目を閉じて息もかすかでした。
その時、ドアを叩く音がして、一人のみすぼらしい老人が入ってきました。
老人が寒さに震えてるのを見て、母親は子供が眠っていたので、暖炉を案内しました。
なにしろ寒い冬の日で、外は雪と氷の世界だったのです。
母親は、
「この子の命は、とりとめることができるでしょうか?
神様は、まさかこの子を私から取り上げませんよね?」
この老人は、実は死神だったのですが、「そうだ」とも「そうでない」ともとれる、妙なうなずき方をしました。
母親は、三日三晩ほとんど寝ていなかったので、思わずとろとろとしました。
でもそれは一瞬で、すぐはっとしました。
ところが、老人がいなくなっていました。子供もいません。
老人が連れて行ってしまったのです。
部屋のすみで、古い時計が振り子をふっていたかと思うと、床におもりが、ことん、と音を立てて落ちました。
それと同時に、時計が止まってしまいました。
あわれな母親は、急いで家を飛び出し、子供の名前を呼びました。
外には、黒い着物を着た女の人が座っていて、
「死神は、あなたの部屋にいたんです。
今、死神が赤ちゃんを連れて行くのを見ましたよ。
一旦連れて行ったものは、二度と返すことはありません。」
母親は、
「どこへ行ったか、教えてください!」
「私は知っていますが、その前に、あなたがいつも歌っている子守唄を聞かせてください。
私は『夜』なんです。私は子守唄が大好きなんです。」
「歌います!けれども、死神に追いつけるよう、私を引き留めないでください。」
けれども、『夜』は何も言わず、座ったままでした。
母親はそこで歌いましたが、それは泣きながらでした。
すると、
「向こうの暗いモミの木の森の中へ行きなさい。そっちへ行くのを見ました。」
森に入ると、道は十字に分かれていました。
そこに、葉も花もついていないイバラのやぶがありました。
母親はイバラに、
「死神が、坊やを連れて通るのを見かけませんでしたか?」
「見たとも!だが、私をお前さんの胸で温めてくれないと、言わないよ。私は凍え死にそうなんだ。」
母親は、胸にイバラを抱いて温めました。
そのとげが胸に刺さって、血を流しました。
その代わり、このイバラは緑の葉を出して、冬なのに花を咲かせました。
それほど、母親の胸は温かだったのです。
ここで、イバラは道を教えてくれました。
今度は、大きな湖に来ました。
しかしそこには、船もボートもありません。
子供を取り戻すには、この湖を越えるしかありません。
とうとう母親は、この湖を飲み干そうとして身を投げました。
飲み干すなんて、そんなこと出来るわけないのですが、奇跡でも起こらないかと思ったのです。
すると湖が、
「そんなことしたってだめだよ。
それより相談だが、わしは真珠を集めるのが好きでね。
あんたの目は、今まで見た中で一番澄んだ真珠だ。
もしあんたが、泣いてその目玉を流し出してわしにくれたら、向こう岸の温室まで運んであげよう。
死神はそこに住んでいて、その花や木、一つ一つが、人間の命なんだよ。」
すると母親は承知して、泣いて泣いて、両方の目玉は湖に沈んで、美しい真珠になりました。
そこで湖は、母親を向こう岸へ運びました。
そこには、何マイルもある不思議な家がありましたが、母親は目がないので、それを見ることができませんでした。
「坊やを連れ去った死神には会えるでしょうか?」
母親はこの温室の世話係の墓守のばあさんに聞くと、
「まだここには戻ってないよ。けれど、どうしてここが分かったんだい?」
「神様が助けてくださったのです。
あなたもきっと、優しい方でしょう。私の坊やは、見つかりますよね?」
するとばあさんは、
「そんなこと、わたしに分かるもんかね。
そう、ゆうべはたくさん、花や木がしぼんでしまったんだよ。
もうじき死神が来て、植え替えられるだろうよ。
人間はそれぞれ、命の木か、命の花を持ってるんだ。
これには心臓のどうきが聞こえるんだ、お前の子どもも、音を頼りに探せば分かるかもしれない。
けれどもお前さん、このことを教えてあげた代わりに、何をくれるかね?」
「もう何も、あげるものはありません。」
「それじゃ、お前さん、その美しい長い黒髪をくれよ。その代わり、私の白い髪をあげよう。」
母親は、
「その他に、望むものがないなら、喜んで差し上げましょう。」
こうして母親は、美しい黒髪をばあさんにやって、ばあさんの白い髪をもらいました。
それから二人は、死神の大きな温室に入ります。
その中には花や木が、いろいろ生えていました。
あるものは元気に、あるものは病気で、どの植物も、それぞれ名前を持っていました。
そして、それぞれが人間の命で、世界中に散らばって生きているのです。
母親は、一つ一つの植物から心臓の音を聞き、とうとう自分の子どもを見つけました。
「これです!」
母親はそう叫んで、小さな青いサフランに両手を伸ばしました。
この花は、すっかり衰えてしまっていました。
「花に触っちゃいけないよ!
死神が来たら、その花を引き抜かせないようにするんだよ。
引き抜こうものなら、お前の方から、他の花も抜いてやるとおどしてごらん。
死神は、神様の許しがなければ、どんな草でも引き抜かないと約束してあるから、困るだろうよ。」
ばあさんはそう言いました。
とその時、死神がやってきました。
「お前はどうしてここが分かった?どうしてわしよりも早く来れたのだ?」
「私は母親でございますもの。」
死神は、その長い手を、衰えている花へ伸ばしました。
母親はその花を、自分の手で覆い、触らせないようにしました。
すると死神は母親の手に、息を吹きかけると、それは冷たく、母親の手はしびれて、ぐったりなってしまいました。
「わしに逆らおうとしてもだめだぞ。」
「子供を返してください!」
母親は涙を流してそう言い、いきなりそばにあった美しい花を二つつかんで、
「あなたの花を抜いてしまいますよ。どうなったって構うもんですか!」
死神は、
「それはやめろ!
お前は、自分が不幸だと言うが、他の母親も同じ不幸に陥れようとしているのだぞ!」
「なんですって!」
母親は、すぐ花を手から離しました。
死神は、
「このお前の目を受け取りなさい。わしはこれを湖から拾って来たのだ。
それで、そこの深い井戸をのぞいてみなさい。お前が今引き抜こうとした二つの花の人間を見せよう。
その花の行く末と、その人間の一生を映してみせよう。
お前がどういうものを引きちぎろうとしたかがわかるはずだ。」
そこで母親は、井戸の中をのぞきました。
そこには、一つの命が、世の中に多くの幸福を広げていくのが見えました。
今度はもう一つの命が映り、それは悲しみや苦しみ、不幸が満ち溢れていました。
死神は、
「両方とも神様の御心だ。」
母親は、
「どちらが不幸の花で、どちらが幸福の花なのですか?」
死神は、
「それは言うまい。
だが、そのうちの一つがお前の子供の花だ。
お前が見たのは、お前の子供の行く末なのだ。」
これを聞くと母親は、
「どちらが私の子供なのか、言ってください!
あんな不幸な目には遭わせないでください!
いっそ、神様の国へ連れて行ってください。
私の言った事、お願いも、みんな忘れてください。」
死神は、
「お前はよく分からん。
お前は子供を返してもらいたいのか、それとも、お前の知らない国へ連れて行って欲しいのか?」
母親は、ひざまづいて、
「神様!私の願いは聞かないでください。あなたの御心こそ、この上ないものです。」
こう言って、母親は頭をうずめました。
死神は、母親の子供を連れて、知らない国へ行ってしまいました。
ある母親の物語の考察
それではここから、この童話の考察に入ります。
まず最初、死神が子供を連れ去った後、部屋を見ると、おもりが落ちて、時計が止まってしまいました。
これには、二つの解釈ができます。
まず、子供を失ったことにより、母親の人生は悲しいものになって、母親の時計が止まったこと。
それから、子供が死神にさらわれて子供の人生を動かす時計が止まったことです。
ですが、この童話の主人公は母親で、この時計が止まる瞬間はすでに家に子供がいなかったことから、
母親の時が止まったことを意味していると考えられます。
この後、母親は死神の向かった道を聞くため、3つのものを払いました。
それは、子守唄を聞かせること、イバラを胸に抱くこと、自分の目でした。
これらに共通するものは、みんな赤ちゃんが欲しているものだということです。
まず、子守唄は、赤ちゃんが安らかに眠るためのものです。
イバラを胸に抱くことは、赤ちゃんを抱きしめること、つまり母親の偽りのない愛です。
そして自分の目を流し出しましたが、湖はこれを真珠だと言っていました。
赤ちゃんは、好奇心が旺盛で、真珠という珍しいものに惹かれるのは、普通のことです。
そして、死神を追いかけるとき、赤ちゃんが欲しがるものを差し出したのは、
連れていかれるときに、赤ちゃんが残した痕跡をたどるのに必要だったと考えられます。
それから、死神の温室では、世話係のばあさんがいて、そのばあさんは、
「死神が母親の子供の花を抜きそうになったら、他の花を抜くぞと脅すんだよ」
なんて言っていました。
でもちょっと考えると、これは不思議なことで、この世話係のばあさんは、死神の味方のはずです。
それなのに、死神を困らせるようなことを勧めていました。
これは、最終的にこの母親を説得するためにこう仕向けたのだと考えられます。
実際に話はこの流れになって、死神は、
「お前は他の母親を不幸にしようとしたのだぞ」
と言って、母親を説得しました。
そしてその後、母親の子供の運命を見せました。
それは、この先子供が生きていたとしたら、幸せになるか、不幸になるか、そのどちらかでした。
しかし、子供が幸せになるか、不幸になるか、どちらなのかは死神は教えませんでした。
この流れから、母親に、子供は生きていたら不幸になるかもしれないということを植え付け、納得させるに至りました。
このやり取りがなかったら、母親は決して子供をあきらめなかったと考えられ、
そうなると、世話係のばあさんはうまくやったと言えます。
そして、この童話の母親は最終的に死神に納得しましたが、
世の中の母親たちは、運命だからと死神に子供を連れ去られ、同じものを見せられても、
納得する人はあまりいないでしょう。
ある母親の物語の感想
この童話は、母親の愛情がものすごく伝わってくる話でした。
イバラを抱いて血を流し、目を失い、美しい黒髪まで失っても、決して子供をあきらめませんでした。
でも、母親のエゴより、子供の幸せが一番なんだなって思わされました。
神様のところに連れてってと言ったので、子供が不幸になってまで生きていてほしいとは思わなかったんですね。
でも、世の中の母親は、運命に背いて、子供が不幸になる未来を見せられても、自分で運命を変えるって思うでしょうね。
あと、子供は幸せになるのか、不幸になるのか、死神はわざと教えなかったですが、
本当はどっちなのか、気になるところでした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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