童話「どろぼうの名人」のあらすじと考察~こんなトリックに騙されるなんて

こんにちは、物語音楽ユニットのEternal Operettaです。

ここでは、グリム童話より「どろぼうの名人」(KHM192)のあらすじと考察、感想までお話しています。

 

どろぼうの名人のあらすじ

ある日のこと、どこやらの貧乏な家の前に、百姓のおじいさんがおかみさんと二人で、仕事の息抜きをしていました。

そこへきらびやかな馬車が乗りつけて、その中から立派に着飾っただんな様が降りてきました。

百姓が何がお望みか聞くと、

「田舎の料理が食べてみたい。ふだんあなた方が食べるようにお料理してください。」

「あなたは伯爵様か公爵様か。お望みをかなえて差しあげます。」

それから百姓は、お客さんを連れて畑に行きました。

百姓が畑仕事をしようとすると、お客さんが、手伝う子供はいないのか、と聞きました。

すると百姓は、

「実はせがれが一人、あるにはありましたが。

ずっと前に、家を飛び出してしまいました。いやもう、悪知恵があって、悪さばかりしておりました。」

「あなた、その息子さんが目の前に出てきたとしたら、今でもお分かりになるだろうか。」

「顔だけでは難しいですね。ですが、せがれには目印があります。肩のところに、エンドウ豆みたいなほくろがあります。」

百姓がこう言うと、お客様は上衣を脱いで、肩にあるエンドウ豆を見せました。

百姓は喜びました。ですが息子が大金持ちになっているのを不思議に思い、どうやってそんな身分になったか尋ねました。

「わたくしがこんなに物持ちになったのは、わたくしがどろぼうになったからですよ。

わたくしはどろぼうの名人です。わたくしは金持ちの余ったものしか盗りません。貧乏人にはむしろ施しをしてやります。

それから、はかりごとがいらず、楽々盗れるものには手をつけません。」

「なさけないこった!わしには気に食わん。言っておくが、どうせ末はろくなことにならないぞ。」

お父さんは息子をお母さんのところに連れて行くと、お母さんはこれが自分の息子だと聞いて喜びました。

しかしどろぼうの名人になったと聞くと、2すじ、涙を流しました。

それから親子三人で食事をとると、自分の仕事をするといって、殿様のお城へ向かいました。

 

お城では、どこかの良い身分の方だと思って、伯爵を迎え入れました。

ですが伯爵が、自分はどろぼうの名人だと知らせると、このお城の殿様は黙り込んでしまいました。

やがて殿様は口を開くと、

「お前は、わしの名づけ子だ。寛大な扱いをしてやろう。

お前は自分でどろぼうの名人だと言ったのだから、一つ、お前に試験をいたす。

それができなければ、お前は死刑にならねばならんぞ。」

そうすると殿様は、まず一つ目は殿様の馬を盗み出すこと、二つ目は、殿様夫婦が寝室に入ってから、その敷布と婚約指輪を盗むこと、

もう一つは、殿様の寺から坊主と納所坊主を盗み出すことを言いました。

名人は隣町へ出かけました。そこでばあさんの着物を買って着ました。

さらに、顔を赤黒くして、しわまで書いて、ばあさんに変装をしました。

それから、上等なぶどう酒に眠り薬を混ぜたものを小さな樽に入れ、それをしょって、殿様のお城に行きました。

お城に着くと、もう日が暮れていました。

うまやの前には兵隊がごろごろいましたが、兵隊と一緒にたき火をすることになりました。

その兵隊は樽の中身が気になって、ばあさんに中身はぶどう酒だと言われると、飲み始めました。

それから兵隊は、他の兵隊たちにも飲ませて、うまやの中にいる兵隊も続いて飲みました。

うまやのなかには三人兵隊がいて、一人は鞍の置かれた馬の上に、一人は手綱を持っていて、一人は馬のしっぽを掴んでいました。

少し経つと、兵隊たちはいびきをかいて寝はじめ、兵隊から手綱は滑り落ち、馬のしっぽを手放し、鞍に乗っているのはそのまま寝ています。

外の兵隊も地べたで転がって寝ています。

どろぼうの名人は、仕事のうまくいったのを見て、兵隊の1人には手綱の代わりに細びきを、一人には尻尾の代わりに小箒を持たせました。

あとは馬の背中に乗ってるのをどうするか。これを下へ降ろすつもりはありません。

名人は馬の腹帯の留め金を外して、細びきを5、6本鞍へ結びつけました。

こうしたのち、馬乗りの兵士を、鞍ごとぐっと持ち上げて、細びきを角柱へ巻き付けておきました。

それから、馬の足音で気づかれないよう、馬のひずめをぼろきれでくるみ、馬を外に出して、またがってかけていきました。

夜が明けてから、名人は盗んだ馬でお城へ乗り込んできました。

「伯爵様、おはようございます。この馬は、わたくしが、うまやより連れ出したものでございます。

兵隊さんたちは、よう眠っております。」

伯爵は笑っていましたが、

「一度はしてやられたが、二度目はそううまくはいかん。」

と言いました。

夜になって、伯爵夫人は婚約指輪のはまっている手をしっかりにぎりました。

そして出入り口の戸はしっかり閉めて、伯爵は起きていて名人が窓から上ってきたら、撃ち落とすつもりでした。

ところがどろぼうの名人は、先に処刑場に行くと、首をくくられている罪人を一人とります。

それから殿様の寝室の窓にはしごをかけ、その死人を肩車して登り始めました。

はしごを登ってちょうど死人の頭が窓枠のところに来たら、殿様はピストルでその頭を撃ちました。

すると名人はその瞬間、罪人を下へ落っことして、自分ははしごを降りてすみっこへ隠れました。

それから殿様ははしごを降りてきて、死人を畑へかついでいきました。畑へ埋葬してやるつもりなのです。

それを見て名人は、すぐに考えが浮かんで、はしごを登って寝室に入りました。

それからどろぼうの名人は、殿様の声を出して、

「賊は死んだ。だがあれはわしの名付け子で、いたずら者ではあるが、悪者ではない。

夜の明けぬうちに、畑へうずめてやろうと思うのだが、敷布をおくれ。死体をくるもうと思ってな。」

奥方は敷布を渡しました。さらに名人は、

「のう、あれに情けをかけてやりたくなった。その指輪をわしにくれんか。

あいつは命がけで仕事をやったのだから、指輪くらいは墓の中に入れてやろう。」

奥方は指輪を渡しました。名人はこの2つを手に入れると、さっさと逃げて、うちへ帰りました。

次の朝、どろぼうの名人が敷布と指輪を持ってくると、殿様はびっくりして、

「お前は魔法が使えるのか。わしがお前を墓に入れた。それが生き返ったのか。」

すると名人は、殿様が殺したのは絞首台の罪人であったことなど、成り行きを話しました。

「だが、これだけではだめだぞ。三つ目の仕事もやってのけねばならん。」

夜になると、どろぼうの名人はお寺の墓地に行き、持ってきたカニを放ち、そのカニの甲羅には豆ろうそくを取りつけて火をつけました。

そしてカニがその状態で地面をはうようにしました。

それが済むと、坊さんの法衣のような長い黒い着物を着て、ひげをあごへ貼りつけ、長い袋を持って、説教壇に上がりました。

時計が12時になったのを見て、

「こりゃ、よく聞け、なんじら罪深い人間ども!

よろずの終わりがきたのじゃ。私に従って天国へ参りたいものは、この袋の中へもぐるがよい。

私は天国の門を開け閉めする役目のペートルスじゃ。

見よ、外なる墓場には、死にたるものが骨をかき集めている。

この袋へ入るが良い、世界は沈むぞう。」

名人がこう叫ぶと、坊さんと納所坊主が聞きつけました。

そしてお墓をうろうろしているあかりを見ると、これはただ事ではないと思いました。

それから世の終わりに天国へ行くのも悪くはないと考え、説教壇へ上がりました。

説教壇の上では、どろぼうの名人が袋を開けて待っています。

まず坊さんが、続いて納所坊主が袋にもぐりこみました。

すると名人は袋を閉じて、説教壇の階段を、ずるずる袋を引きずりながらかけおりました。

二人のばか者の頭が階段にぶつかるたびに、

「はや、山ごしが始まっておるぞ。」

お寺を出てからは、名人は村中引きずり回し、水たまりを通る時は

「それ、雨雲の中を通るぞ。」

それからお城の階段をあがるときは

「それ、ただいま天国の階段を上るとこじゃ。」

そしてそのあとは、袋を鳩小屋の中へ押し込み、鳩がばさばさ羽ばたきをすると、

「天人たちが嬉しがって、羽ばたきをしておるわ。」

と言って、戸にかんぬきを差して、どこかへ行ってしまいました。

次の朝、殿様にこのことを報告すると、

「お前はたいした泥棒だな。お前の勝ちだ。命は取らんが、わしの領地から立ちのけよ。

もしも再び領内へ足を踏み入れれば、その時は絞首台に上るものと覚悟するがよい。」

どろぼうの名人は両親に別れを告げ、どこかへ行ってしまいました。

それきり、この男の噂を聞いた者はいませんでした。

 

どろぼうの名人の考察

それではここから、この童話の考察に入ります。

まず、主人公は泥棒だということですが、どろぼうの中ではそこまで悪人ではないことがとれます。

実際に、お金持ちだけしか狙わず、しかも余っているものを盗んでいるだけにとどまっています。

その泥棒のスタイルは日本の歴史上の石川五右衛門に似たところがありそうです。

この主人公は、貧乏人には施しをしていますね。

さらに、お城に行ってからは、自分がどろぼうの名人だと言っても、すぐに処刑されることはありませんでした。

殿さまも情けをかけてやろうと思えるような泥棒だったと考えられます。

悪人には違いないですが、こういうところを考慮すると、本当の悪ではないと見えます。

殿様が出したどろぼうの課題は3つありましたが、三番目のは一番難しい課題です。

なぜなら、人を盗まなきゃいけないという内容だったからです。

名人は変装して、墓場をあかりがさまよう状況まで作りました。

普通に考えたら、この程度で世界の終わりが来た、なんて人を騙せるわけがないのですが、

坊さんと納所坊主の二人を騙すことに成功しましたね。

しかも、名人の持っている袋に入れば天国へ行けるなんて、普通は騙されないです。

この二人は、物語の中でも「ばか者」と表記されているほど、間抜けだったのだと考えられます。

なので、どろぼうの名人が他の人を盗んで来いと言われていたら、失敗していたと考えられます。

 

どろぼうの名人の感想

それでは、長くなりましたが最後に感想です。

まず最初、百姓が偉い人が来たと思ったら、自分の息子だったシーンがありましたね。

父親からしてみれば、普通だったら長年会えなく、どこでどうしてるかも分からない息子が来たら、嬉しく思いますよね。

ですがその後、どろぼうの名人になってお金持ちになった、なんて聞かされたら、ショックなことこの上ないはずです。

さて、このどろぼうの名人は、泥棒で何を盗むかよりも、どろぼうの行為自体を楽しんでいる感じがしますよね。

馬を盗むためにばあさんに変装したり、天国の門番のペートルスになって間抜けな二人を騙したり。

盗むために、わざわざ念入りに準備をしているところを見ると、それがよく分かります。

また、どろぼうの名人にとっては、何から何まで思った通りにいくのも面白いですよね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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というわけで、物語音楽ユニットのEternal Operettaのブログでした!

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